(画像出典:「ダイヤモンド社」)
(前略)
当初は、いちょう並木東側の樹木がある遊鋪道をつぶして高さ15mの商業施設を、また絵画館を臨む場所に高さ30mの7階建ホテルを建設予定だったが、現在、その計画は削除されている。
しかし、既存の建物と位置が入れ替わる新秩父宮ラグビー場と新神宮球場に隣接して、200m級の超高層ビル建設が計画されている。
あの六本木ヒルズでも高さ230m、それと同様の天を突くような超高層ビルが、世界から愛される景観「外苑いちょう並木」の入り口横にそそり立つこととなる。
以前から東京都やデベロッパーは、「いちょう並木を中心とした緑豊かな風格ある都市景観を保全する」と繰り返し説明してきた。
しかし、開発計画の内容は新国立競技場周辺以外、2013年からずっと伏せられたままで、2020年に明らかになった時には既に、いちょう並木はつぶされ、超高層ビルが林立するという「緑豊かな風格ある都市景観」とは真逆のものになっていた。
虚偽の説明を重ねてきたデベロッパーと都の代表者には、市民が納得する説明を公の場で行う義務がある。
もう一枚の図をご覧いただきたい。
(画像出典:「東京新聞」)
いちょうの根本からわずか8mという場所に、新神宮球場の建物の外壁が設置される予定だ。しかもその高さは、現在のいちょうの樹木と同じ25m。さらに新球場には60mという高層ホテルが併設予定で、周辺の日照と通風はさらに遮られることとなる。
これでいちょう並木の良好な生育環境を、本当にこれまで通り維持できるのか?
一体誰が、聳え立つ壁が近接する無惨ないちょう並木を見て美しいと感じ、癒された気持ちに浸りながらその木陰を散策したいと思うのか?
そもそもなぜこんなに広大な敷地があるにもかかわらず、いちょうの生育と景観を犠牲にしてまで、新神宮球場を並木ギリギリまで寄せて建設する必要があるのだろうか。
その理由は、新球場横にあるデベロッパー所有の超高層ビルの容積率を上げるためではないかと言われている。
真偽のほどは定かではないが、なぜこんな無謀きわまりない建設計画を断行する必要があるのか。「緑豊かな風格ある都市景観を保全する」と説明して来た通り、東京都もデベロッパーも本開発計画を一旦中止し、公開で市民や専門家と十分な議論を重ねた上で、抜本的な見直しを行うべきだ。
デベロッパー所有の建物をめぐる疑念は、それだけではない。
東京五輪開催に向け、新国立競技場と新ラグビー場の間に常設のサブトラックが建設される予定だったが、なぜか途中で計画から消えてしまった。
その結果、世界陸上選手権大会の開催が可能な「第1種」の競技場に必須であるサブトラックを、東京五輪では“仮設”でしのぐという奇妙奇天烈な事態となった。
東京にオリンピックのレジェンドとなる「スポーツクラスター」をつくろうという謳い文句で始まったはずの神宮外苑再開発計画だったが、蓋を開けてみれば超高層ビル建築の障害になるものは環境も文化も歴史も、いやスポーツでさえも、すべて排除されるというこの計画の本丸が透けて見える話だ。
《災害級の突風を生む超高層ビルの恐怖》
「スポーツクラスター」という看板を掲げた超高層ビル建設計画が危うくするのは、自然環境や文化だけではない。生命や財産といった「安全」をも脅かす。
計画では190mの高さとなる商社ビルは、青山通り(国道246号)に面して今も建っており、現在の高さは約100m。
しかしこの高さでも強風時には、鋪道の歩行や交差点の横断は突風に煽られかなり危険で、近隣の青山小学校に通う児童や高齢者が多い住民は恐怖心を抱いている。
実際、最近の台風により青山通りの街路樹には倒木の被害が複数発生しており、商社ビル前の信号待ちで、強風時に車体が浮く経験をしたのは私だけではないはずだ。
今でもこうしたビル風の危険に晒される青山通りに200m近い超高層ビルが林立したら、歩行者や通行車、近隣の家屋や商店などに対し、強風や日照不足など環境の変化による安全や健康への影響はないのか、デベロッパー側は今すぐにでも科学的な調査を徹底して実施し、そのデータを公開すべきだ。
《超高層ビル建設は表参道へも拡大》
実は、神宮外苑再開発計画のデベロッパーは、同じ青山通り沿いの南青山側でも150mの超高層ビル計画を進めている(神宮外苑は北青山側)。