(前略)
プログラミング教育を小学校一年生(5歳)から必修として学び、プログラミング教育先進国の一つである英国では、必修化に先立ち、子どもたちを教える教員へのプログラミング教育をまず実施しました。英国政府は50万ポンド(当時の円換算で8500万円)を投じて、民間企業のカリキュラムを教員が学習するという教育訓練を実行したそうです。
算数の時間を使ってアルゴリズムを教えたり、図工の時間を使ってロボットを組み立てプログラムを動かしたりなど、既存のカリキュラムの中にコンピューターサイエンス的な視点を入れて授業を展開することは、可能であるし望ましいことでもあると思います。ただ、それを実践できる小学校教諭はきわめて限られています。
2020年度からプログラミング教育を必修化するのであれば、指導人材の養成・確保には早急に取り組まなければなりません。付言させていただけば、小学校教諭は現状において既にきわめて過酷な労働を強いられています。昨今のモンスターペアレント問題を筆頭に、小学校の教諭たちは授業時間以外にも対応・処理すべき多様な問題を抱え、ともすると疲弊しかねない状況にあります。
そこに新たにプログラミング教育のための研修時間を確保しなければならないとしたら、その分だけ子どもたちと向かい合う時間が失われかねないことを、教育行政を司る方々にはよく認識していただきたいと思います。たとえ既存教科の内容を応用することでプログラミング教育を実践するとしても、その負担を小学校教諭だけに負わせるのはあまりに酷なことです。企業や大学・研究所あるいはそうした組織をリタイアした方々などによる人的支援を、全国の小学校に幅広く行き渡らせることが、プログラミング教育の成功に向け必須であると思います。
第三は、「指導方法・教育教材」の開発・普及です。
論理的な思考力や問題解決能力を養うためのプログラミング教育とは、一体どのように実践すればよいのか。その具体的な指導方法や教育教材が示されない限り、ほとんどの教諭は指導ができません。もちろん中には、特別な知識やスキルそして意欲を持って取り組める教諭もいるでしょうが、全国にプログラミング教育を普及させるためには、指導方法や教育教材の開発が人材の養成・確保とともに欠かせません。
しかも、開発した内容が実際に浸透し実践されていくまでには、啓発や普及に膨大な時間や努力が必要であることも忘れてはならない点です。いち早くプログラミング教育を「Computing」という教科として位置づけ取り組んでいる英国でも、いまだ従来のICTリテラシーや情報活用能力の習得の指導にとどまっている学校もあるとのことで、指導者のトレーニングや新教科の普及・啓発が当面の課題であると報告されています。
プログラミング教育が未来を拓く教育プログラムとして本当に重要であるのだとすれば、「他の国に後れをとってはいけないから、とりあえず必修化してみました」というような、中途半端な導入の仕方はやめるべきです。ましてや、プログラミング教育の実施により恩恵を受ける関係団体や企業だけが潤って、投入した税金が結果的に死に金になるというような事態は絶対に避けなければなりません。
授業時間、指導人材、教育教材、この3点を確保するために、政府は教育現場のIT化を電子教科書の導入をはじめハード面だけでなく、ソフトやコンテンツの面からも全力で推進してほしいと思います。
ただ、予算も授業時間数も人材も、すべては限られています。是非、プログラミング教育導入を契機として、思考力や読解力、問題解決力や問題設定力を高めるため、「教育内容のリストラ」について、文科省の審議会や懇談会はもちろん社会全般で議論を深めて行くべき時に来ているのではないかと思うのです。
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