(前略)
種が発芽しその芽が育つ健全な大地が無ければ、健全な「科学技術の樹」は育たず、社会を豊かにするシーズやイノベーションといった果実も生まれない。
またそれぞれの樹(研究分野)が育ち立派な森(科学技術立国)となるためには、成長が早く成果が分かりやすい針葉樹と、成長に時間はかかるが多くの実りをもたらす広葉樹が共存し、多様な生物が互いに支え合い、つなぎ合う生態系の構築が必須である。
同時に、大きな果実を得るためには、無数についた若実や若木(研究萌芽)から最後まで育て上げる候補を選ぶ、「目利き」が欠かせない。
技術と経験に裏打ちされた摘果や間伐作業(適正な評価)と、的確な施肥(予算投入)や成熟期間(研究期間)が揃うことにより、真に豊かな実りはもたらされる。
有能な経営者は同時に優秀な目利きであり、必要と判断すれば赤字に耐えて研究費を長期間に亘り投じ、その結果として高い企業業績を上げる。
彼らは、好奇心に突き動かされ“科学する心”、自由な発想、知の多様性なくして、イノベーションはないことを知っており、イコールパートナーとしての研究者へのリスペクトを忘れない。
「明治神宮の森」は、木々の植生に精通した専門家たちが描いた将来予想図に基づき、100年かけて人工的に作られた自律的な永続林である。
その成功の要は、「すべて針葉樹を植えよ」という当時の総理の指示にもかかわらず、科学的根拠に基づいた専門家の進言の通り、多様な樹々を植え育てるよう導いた政策担当者たちの、高い見識と国の将来を思う責任感にあった。